書き物
「次はここだね」 目の前には高い建物。白かった壁には蔦が這っている。陽を取り込むガラスは砕け、中だけでは我慢できないと、枝を伸ばしている。 「ここは何なんすか」 遅れて乗り物から降りた女が言う。 「商業複合施設。色んな店や、遊ぶ場所がひととこ…
「ここに高名な剣士がいると聞いたのだが 」 勢いよくドアを開けたのは、身の丈ほどもある剣を背負った偉丈夫。 店主は気圧されず、ご注文は、と返す。飲まぬ客に渡すものなどないのだ。 「俺は酒を飲みに来たわけじゃねえ。さっさと聞いたことに…… 」 「ご…
がりがりと音が聞こえる。ここの店主はいつも同じスピードで豆を挽くのだ。だから3,2,1……そう、ここで手が止まる。止まってからこういうのだ、どのカップで飲みますか、と。 「今日はそうね、それでお願いしてもいいですか? はい、その桜の花のもので…
うちにはもうひとりいるから、仲良くしてやってくれ 先生と呼んでくれと言った少女はそう言った。よくわからないこの世界に落とされた僕の言うことを、何も言わずに信じてくれた先生。関係を悪くしたいとは思うわけもなく、はいと答えた。 先生の家に着き、…
草の匂いと、土の匂いがした。 土色のレンガで建てられた、砦といえばいいのだろうか。大きな建物が目の前にあった。 砦の周りには傷ついた人が沢山いた。包帯に血をにじませた人、松葉杖をついている人、椅子に座ってぼうとしている人。白衣を着た人が、担…